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寿司屋で日本酒を楽しむ:カウンターでの作法と楽しみ方

寿司屋で日本酒を楽しむ:カウンターでの作法と楽しみ方

江戸前寿司の酢飯を支えた「粕酢」は、酒粕から作られていました。寿司と日本酒が同じ発酵の系譜でつながっている歴史をたどり、カウンターでの頼み方、ネタごとの合わせ方、作法までを解説します。

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執筆: delicious sake 編集部

寿司屋で日本酒を楽しむ

寿司屋のカウンターで日本酒を頼む。あまりに自然な組み合わせなので、理由を考えたことがない人も多いだろう。

ところがこの二つの関係は、味の相性という以前に、歴史の上でつながっている。寿司も日本酒も、米と発酵から生まれた。しかも江戸前寿司の全盛期を支えた酢は、日本酒を造った後に残る酒粕から作られていた

味の話に入る前に、その来歴から見ていきたい。

寿司は、もともと発酵食品だった

寿司の原型は「熟れ鮨(なれずし)」である。魚を塩と米飯に漬け込み、長期間かけて乳酸発酵させた保存食で、滋賀県の鮒寿司がその姿をいまに残している。

このとき米は、魚を発酵させるための媒体だった。発酵が進むと米はどろどろになり、食べるのは魚だけ。米は捨てられていた。

やがて室町期になると、発酵を途中で止めて米も一緒に食べる「なまなれ」が現れる。さらに時代が下ると、発酵を待つ代わりに酢を使って酸味をつけるという発想が生まれた。これが「早ずし」で、いまの酢飯につながる。

そして江戸時代末期、文政年間(1818〜1831年)に握り寿司が完成する。両国の華屋与兵衛らがその大成者として知られる。魚を発酵させる数か月を、酢によって一瞬に置き換えた——寿司の歴史は、この短縮の歴史でもある。

ここで注目したいのが、乳酸発酵という言葉だ。日本酒の伝統的な酒母である生酛(きもと)もまた、乳酸菌の働きを利用して雑菌を抑える。魚を保存するために使われた原理と、酒を安全に造るために使われた原理は、同じところにある。

酢飯の酢は、酒粕から生まれた

寿司と日本酒の関係を決定的にしたのが、**粕酢(かすず)**である。

1804年、尾州半田(現在の愛知県半田市)の中野又左衛門は江戸を訪れ、当時流行していた早ずしに出会った。当時の寿司に使われていたのは米酢である。彼はここで、「米酢を粕酢に替えられれば、もっと美味い寿司ができるのではないか」と考えた。

半田に戻った又左衛門は開発に取り組み、熟成させた酒粕を原料とする酢を完成させる。酢飯にしたときの色合いが美しかったことから、この酢は「山吹」と名づけられた。ミツカンというブランドの第一号にあたる商品である。

粕酢は米酢よりも旨味が濃く、まろやかだった。江戸の握りずし屋がこぞって使うようになり、半田の港から弁才船で江戸へと運ばれていく。いまも「赤酢」と呼ばれるこの系統の酢は、江戸前寿司の色と味を決定づけた。

つまり——江戸前寿司は、日本酒造りの副産物によって支えられていた。酒を搾った後に残る酒粕が、寿司の土台である酢飯を作っていたことになる。

寿司屋で日本酒を飲むという行為は、原料のレベルで一周してつながっている。

味として、なぜ合うのか

歴史を離れて、実際の相性も見ておきたい。

旨味の相乗効果。 魚介に多く含まれるイノシン酸と、日本酒に含まれるアミノ酸——異なる旨味成分が重なると、単純な足し算以上に旨味が強く感じられることが知られている。日本酒は他の醸造酒に比べてアミノ酸が豊富で、この点で魚と組みやすい。

生臭みが立ちにくい。 魚の生臭さは鉄分と反応して強まる性質がある。日本酒は鉄分が極めて少ない飲み物だ。酒造りでは鉄が味と色を損なう成分として徹底的に排除されるため、結果として魚と合わせても臭みが出にくい。

口の中がリセットされる。 酢飯の酸味と魚の脂が残った口に日本酒を含むと、次の一貫に向けて味覚が整う。寿司が一貫ずつ供される形式である以上、この役割は小さくない。

カウンターでの頼み方

最初の一杯

席についてすぐなら、すっきりした冷酒が扱いやすい。淡麗な純米酒や本醸造を冷やで。まだ何も食べていない状態なので、香りや味が強すぎないものがいい。

いきなり大吟醸を開けると、序盤の淡白なネタに対して酒が勝ってしまうことがある。

ネタの流れに合わせる

白身から始まり、赤身、光り物、貝、そして煮穴子や玉子へ——寿司は一般に、淡いものから濃いものへ進む。酒も同じ方向に動かすと噛み合う。

  • 白身・イカ——淡麗な冷酒。香りは控えめなものを
  • 赤身・中トロ——旨味のある純米酒。常温も合う
  • 光り物(コハダ、アジ)——酸のある酒。酢締めの酸味に負けないもの
  • 貝類(赤貝、ホタテ)——香りのある吟醸系。貝の甘みと重なる
  • 雲丹・いくら——濃厚な純米酒で受けるか、あえて軽い酒で流すか。好みが分かれる
  • 穴子・玉子——甘めのタレには、旨味のある酒をぬる燗で

魚介との詳しい組み合わせは日本酒と魚介料理のペアリングで扱っている。

量の目安

寿司屋での日本酒は、少量ずつ複数種類が向いている。一種類を一合ずつ飲むより、半合ほどを何種類か頼むほうが、ネタの流れに合わせやすい。

グラス売りや半合売りをしている店なら、それを活用したい。銘柄を変えるたびに新しい器を出してくれる店も多い。

頼み方の言葉

「おすすめを」でも通じるが、もう少し具体的に伝えると精度が上がる。

次はコハダをいただくので、それに合うものを

ネタを軸に相談するのが、寿司屋ではもっとも自然な頼み方になる。板前は自分の出す寿司を誰よりも知っているので、この聞き方には的確に答えてくれる。

カウンターの作法

構える必要はないが、知っておくと落ち着いて座れることがいくつかある。

予約時に伝えること。 苦手なネタ、アレルギー、滞在できる時間。事前に伝えるほど店は段取りしやすい。日本酒を飲みたい旨も伝えておくと、それを見越した組み立てにしてくれることがある。

握りは早めに食べる。 出された寿司は、シャリの温度とネタの状態が最適な瞬間に握られている。写真を撮るなら手短に。会話中でも、握りが置かれたら一度そちらを優先するのが理にかなっている。

手でも箸でもいい。 どちらで食べても構わない。手で食べる場合はおしぼりを都度使う。

ガリは口直し。 好きなだけ食べていいが、味覚をリセットする役目があるので、ネタの合間に少量ずつ使うのが本来の用途になる。

「あがり」「シャリ」は本来は店側の言葉。 客が使っても失礼ではないが、無理に使う必要はない。「お茶をください」で十分通じる。

香りの強い香水は避ける。 繊細な魚の香りが分からなくなる。隣の客への配慮でもある。

立ち食い・回転寿司でも

カウンターの高級店に限った話ではない。

立ち食い寿司や地方の回転寿司でも、地酒を置く店は増えている。とくに港町では、その土地で揚がる魚と、その土地の酒が同時に揃うことがある。産地を合わせるという発想は、こうした店でこそ実践しやすい。

気張らずに、目の前の魚に合う一杯を選ぶ。それができれば、店の格は関係ない。


寿司と日本酒の関係は、味の相性という言葉だけでは説明が足りない。

魚を米で発酵させるところから始まり、酢によって時間を短縮し、その酢は酒粕から作られた——寿司の歴史は、日本酒の技術と原料に何度も交差している。

カウンターで一貫と一杯を交互に口へ運ぶとき、そこには200年分の積み重ねが乗っている。


魚介料理全般との相性は日本酒と魚介料理のペアリングをご覧ください。

店での注文のコツは居酒屋での日本酒の頼み方でも解説しています。

参考: ミツカン「すしラボ すしの歴史」、ミツカンホールディングス「初代 中野又左衛門」、江戸前寿司の成立に関する公開資料

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