日本酒の健康効果:適量で得られるメリットと注意点
厚生労働省は2024年2月、日本で初めての飲酒ガイドラインを公表しました。純アルコール量という考え方、日本酒1合が持つ意味、「適量なら健康に良い」という通説の現在地を、公的指針に沿って整理します。
日本酒と健康:科学的に見る効果と注意点
「酒は百薬の長」という言葉がある。
ただ、この言葉が使われてきた時代と、いまの科学的な理解には、かなりの隔たりがある。日本酒と健康の関係について、現時点で何が言えて、何が言えないのかを整理しておきたい。
注意:この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な助言ではありません。健康上の問題がある方、服薬中の方は、必ず医師に相談してください。
2024年、日本で初めての飲酒ガイドライン
2024年2月19日、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表した。国として飲酒に関する指針をまとめたのは、これが初めてである。
このガイドラインが重要なのは、「お酒の種類」ではなく「純アルコール量」を基準に据えた点にある。ビールでも日本酒でもワインでも、体に入るアルコールの量が同じなら、影響も同じという考え方だ。
純アルコール量の計算
純アルコール量は、次の式で求められる。
摂取量(ml)× アルコール度数(度数 ÷ 100)× 0.8
最後の0.8はアルコールの比重である。
日本酒(度数15%)を1合(180ml)飲んだ場合を計算してみる。
180 × 0.15 × 0.8 = 21.6g
つまり日本酒1合は、純アルコール量にしておよそ20g。ガイドラインでも、20gの目安としてビール500mlや日本酒1合が挙げられている。
リスクが高まる量
ガイドラインは、生活習慣病の発症リスクを高める飲酒量として、次の数値を示している。
| 1日あたりの純アルコール量 | 日本酒に換算すると | |
|---|---|---|
| 男性 | 40g以上 | おおよそ2合以上 |
| 女性 | 20g以上 | おおよそ1合以上 |
男女で倍の差があることに注意したい。女性は男性に比べて体内の水分量が少なく、アルコールの影響を受けやすいためとされる。
この数値は「これ以下なら安全」という保証ではなく、「これを超えるとリスクが高まる」という線引きである。この違いは小さくない。
「適量なら健康に良い」は、いま揺らいでいる
かつて広く語られた「適量の飲酒は、まったく飲まない人より健康に良い」という説——いわゆるJカーブ——は、近年その根拠が問い直されている。
過去の研究では、飲まない人のなかに「健康を害したために飲むのをやめた人」が含まれており、その影響で「飲まない人の健康状態が悪く見えていた」可能性が指摘されている。この点を補正した研究では、少量の飲酒でも一部の疾患についてはリスクが上昇するという報告が出ている。
厚労省のガイドラインも、健康効果を謳うものではなく、リスクを正しく理解して不適切な飲酒を減らすことを目的として作られている。
したがって現時点での妥当な理解は、こうなる。
日本酒は嗜好品であって、健康のために飲むものではない。
美味しさ、食事との相性、文化的な楽しみ——飲む理由はそれで十分だし、それが本来の姿だろう。
日本酒に含まれる成分について
日本酒には、他の酒類と比べて特徴的な成分が含まれている。ただし、その扱いには注意が必要だ。
アミノ酸——日本酒には20種類以上のアミノ酸が含まれ、他のアルコール飲料と比べても含有量が多いとされる。純米酒や生酛造りの酒はとくに豊富だ。これが旨味の正体であり、日本酒の味の厚みを支えている。
有機酸——乳酸、コハク酸、リンゴ酸などが含まれ、味わいに奥行きを与えている。
ペプチド——タンパク質が分解されてできる成分で、一部について生理活性を調べた研究報告がある。
ここで大事なのは、これらの成分が含まれていることと、健康に良いことは別だという点である。含有量は微量であり、その成分を摂るためにアルコールを飲むのであれば、アルコール自体のリスクのほうが上回る可能性が高い。
成分の話は、日本酒の味を理解するうえでは意味がある。健康の根拠としては、慎重に扱うべきだ。
飲みすぎたときに起きること
肝臓への負担——アルコールは主に肝臓で分解される。過剰な飲酒が続くと、脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変といった段階でリスクが高まっていく。
依存——アルコールには依存性がある。「飲まないと落ち着かない」「以前より量が増えた」「飲む時間を待ち遠しく感じる」といった変化は、早めに専門家へ相談する目安になる。
生活習慣病——高血圧、糖尿病、脂質異常症などのリスクが上がる。前述のガイドラインの数値は、まさにこの点を基準にしている。
睡眠の質——「寝酒」は入眠を早める一方で、睡眠の後半に覚醒しやすくなり、深い睡眠を妨げる。眠るために飲むという習慣は、睡眠の質という点では逆効果になりやすい。
カロリー——日本酒1合はおよそ190〜200kcal程度とされる。毎日続けば、それだけで体重の管理に影響する。つまみのカロリーも加わることを忘れたくない。
付き合い方の実際
リスクを踏まえたうえで、飲むと決めたなら、負担を減らす工夫はいくつかある。
空腹で飲まない。 胃に何もない状態ではアルコールの吸収が早まる。食べながら飲むほうが、血中濃度の上がり方が緩やかになる。
和らぎ水を飲む。 日本酒と並行して水を飲む習慣で、洋酒でいうチェイサーにあたる。飲むペースが自然に落ち、脱水も防ぎやすい。
ゆっくり飲む。 味わって飲めば、少ない量でも満足感が得られる。同じ一合でも、10分で飲むのと1時間かけるのとでは、体への負担がまったく違う。
飲まない日を作る。 週に何日か酒を飲まない日を設けることは、量の管理として有効だ。習慣化した毎日の飲酒は、量が増えていることに気づきにくい。
自分の量を把握する。 純アルコール量の計算式は覚えておくと役に立つ。「今日は何g飲んだか」を意識するだけで、感覚に頼るより正確に管理できる。
飲んではいけない場合
次に当てはまる場合、飲酒は避ける必要がある。
- 妊娠中・授乳中の方
- 20歳未満の方(日本の法律で禁止されています)
- 車やバイク、自転車を運転する予定のある方
- 医師から禁酒を指示されている方
- アルコール依存症からの回復途上にある方
また、次に当てはまる場合は、事前に医師へ相談することをすすめたい。
- 肝臓・膵臓・消化器に疾患のある方
- 糖尿病、高血圧などで治療中の方
- 服薬中の方(薬とアルコールの相互作用があります)
- 体質的にアルコールで顔が赤くなる、動悸がするなどの反応が出る方
顔が赤くなる体質は、アルコールの分解過程で生じるアセトアルデヒドを処理しにくいことを示している。無理に飲み続けることは、健康上のリスクを高める。飲めないことは体質であって、鍛えて変わるものではない。
「健康に良い」という宣伝への注意
「日本酒の◯◯成分が体に良い」という言説を目にすることがある。
こうした情報に接したときは、その成分を得るためにアルコールを摂取する必要があるのかを考えてみてほしい。同じ成分がより安全に摂れる食品があるなら、そちらを選ぶほうが合理的だ。
日本酒を売るための言葉と、健康のための情報は、分けて考えたい。
日本酒との付き合い方は、結局のところシンプルだと思う。
自分がどれだけ飲んでいるかを数字で把握し、食事と一緒にゆっくり飲み、飲まない日を作る。体調や状況によっては飲まない選択をする。
「酒は百薬の長」という言葉は、酒を正当化するためではなく、度を越さないことを説くために使われてきた側面もある。長く楽しむための条件は、昔もいまもそれほど変わらない。
美容への影響については日本酒と美容をご覧ください。
二日酔いを防ぐコツは二日酔いしにくい飲み方で詳しく解説しています。
参考: 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日公表)、同「健康日本21」