日本酒に合うおつまみ:定番から意外な組み合わせまで
日本酒のつまみ選びには原則があります。旨味を重ねること、発酵食品を合わせること。うに・このわた・からすみという三大珍味がなぜ酒のために発達したのかを踏まえ、家にあるもので始められる組み合わせまで解説します。
日本酒とおつまみ、至福のひととき
日本酒のつまみに、厳密な正解はない。ただ、外しにくい原則は確かに存在する。
そしてその原則は、日本の食文化の中に、すでに答えとして埋め込まれている。酒のためだけに発達してきた食べ物の系統があるからだ。
原則は「旨味に旨味を重ねる」
日本酒は、他の醸造酒に比べてアミノ酸を多く含む。この旨味成分が、日本酒の味の厚みを作っている。
だからつまみを選ぶときの基本は単純で、同じく旨味の強いものを合わせることになる。旨味どうしが重なると、単純な足し算以上に味が広がることが知られている。
もう一つの要素が塩気である。塩は旨味を引き立て、同時に酒を進ませる。日本酒のつまみに塩辛いものが多いのは、経験的にこの効果が知られていたからだろう。
逆に相性が難しいのは、強い酸味と強い甘み、そして油脂が突出したものである。合わないわけではないが、酒の側を選ぶ必要が出てくる。
珍味——酒のために発達した食べ物
日本には「珍味」と呼ばれる食品群がある。少量で強烈な旨味を持ち、そのほとんどが塩蔵や発酵によって作られる。
そして、これらは基本的に酒を飲むために発達してきた。ご飯のおかずとして大量に食べるものではなく、少しずつ舐めるように味わい、酒を進めるためのものだ。
日本三大珍味
江戸時代からうに・このわた・からすみが日本三大珍味とされてきた。
からすみは、ボラの卵巣を塩蔵して乾燥させたもの。1652年に中国から長崎へ伝わったといわれる。薄く切って炙ると、凝縮した旨味と塩気が立つ。日本酒との相性はほとんど反則的で、小さな一片で一杯が進む。
このわたは、ナマコの腸を塩漬けにして熟成させたもの。かつては能登、尾張、三河のものが貢物とされた。独特の潮の香りと濃密な旨味があり、少量を舌の上で溶かすように味わう。
うには、生殖巣に塩を混ぜてペースト状にした「塩うに」を指す。福井県産のものは越前雲丹と呼ばれる。生うにの淡い甘さとは別物で、塩と熟成によって旨味が凝縮している。
酒盗
名前がそのまま用途を語っている珍味もある。**酒盗(しゅとう)**だ。
カツオの内臓——主に胃や腸——を塩漬けにし、長期間熟成させた塩辛である。名前の由来は、これを肴にすると酒がどんどん進み、まるで酒を盗まれたようになくなってしまうことから。
長期熟成による濃厚な旨味は、アンチョビに例えられることもある。クリームチーズと合わせたり、少量を冷奴に乗せたりする使い方も広まっている。
こうした珍味を口にすると、日本酒のつまみ選びの原則が、そのまま形になっているのがわかる。塩気があり、旨味が濃く、少量で足りる。
発酵には発酵が合う
もう一つの大きな原則が、発酵食品どうしの相性である。
日本酒は麹と酵母による発酵食品だ。そして日本の食卓には、同じく発酵によって作られたものが並んでいる——味噌、醤油、漬物、塩辛、鰹節。
これらが日本酒と合うのは偶然ではなく、発酵の過程でアミノ酸が生成されるという共通点があるためだ。同じ原理で作られたもの同士が、同じ食卓に並んでいる。
この考え方を広げると、日本の食材でなくても成立する。チーズは乳を発酵させたものであり、日本酒との相性は非常によい。とくに熟成の進んだハードタイプや、クセの強い青カビ系は、旨味の濃い純米酒や熟成酒と噛み合う。
秋田のいぶりがっこにクリームチーズを挟む食べ方は、この原理を最もわかりやすく示す例だろう。燻製の香り、漬物の乳酸、チーズの旨味——三つが重なり、日本酒の受け皿として完成している。
家にあるもので始める
つまみのために買い物に出る必要はない。日本酒は、家にあるもので十分に楽しめる。
乾き物——するめ、さきいか、あたりめ、ナッツ類。噛むほどに味が出るものは、ゆっくり飲む場面に向く。
缶詰——鯖の水煮、いわしの味付け、牡蠣の燻製、コンビーフ。とくに鯖缶は、そのまま器に空けるだけで完成度の高いつまみになる。
冷蔵庫の常備品——豆腐、納豆、キムチ、明太子、漬物、チーズ。冷奴に薬味を乗せるだけでも十分だ。
コンビニで揃える——焼き鳥、おでん、チーズかまぼこ、ゆで卵、枝豆。とくにおでんは、出汁の旨味という点で日本酒と正面から噛み合う。
凝った料理を作らないほうが、酒そのものに集中できるという面もある。
酒のタイプ別に選ぶ
4タイプ分類を踏まえると、選び方はさらに整理できる。
薫酒(香り高く軽い)——香りが主役なので、つまみは控えめに。白身魚の刺身、生ハム、シンプルなチーズ、フルーツ。強い塩気や燻製香はぶつかりやすい。
爽酒(香り穏やかで軽い)——ほぼ何にでも合う万能型。枝豆、冷奴、天ぷら、揚げ物。日常のつまみと最も相性がいい。
醇酒(香り穏やかで厚みがある)——珍味の本領が発揮される領域。塩辛、酒盗、からすみ、味噌を使った料理、煮物、チーズ。燗にするとさらに幅が広がる。
熟酒(熟成した濃厚なタイプ)——濃い味に負けない。中華の濃厚な料理、鰻、ブルーチーズ、ドライフルーツ、チョコレート。意外に思われるが、甘い菓子とも組める。
温度で組み合わせを変える
同じつまみでも、酒の温度によって印象が変わる。
冷酒には、冷たいつまみか、あっさりしたものを。刺身、冷奴、酢の物、サラダ。温度帯を揃えると口の中がまとまる。
燗酒には、温かいもの、あるいは塩気と旨味の濃いものを。おでん、鍋、焼き魚、干物、珍味。温度が上がることで旨味の感じ方が強まるので、つまみ側も濃いほうが釣り合う。
冬に燗酒と干物を合わせると、なぜこの組み合わせが定着したのかが体感でわかる。
少しだけ作るなら
手をかけたくなったときのために、簡単なものをいくつか。
きゅうりの浅漬け——切って塩をふり、少し置くだけ。塩昆布を混ぜると旨味が加わる。
焼き味噌——味噌に刻んだねぎや大葉を混ぜ、アルミホイルに広げて焼く。香ばしさが立ち、少量で酒が進む。
アボカドの醤油和え——切って醤油とわさびで和えるだけ。とろりとした食感が、旨味のある純米酒と合う。
卵黄の醤油漬け——卵黄を醤油に一晩漬ける。濃厚な旨味の塊になり、そのまま舐めても、ご飯に乗せてもいい。
いずれも数分でできて、材料も特別ではない。
日本酒のつまみ選びに迷ったら、塩気があって、旨味が濃くて、少量で満足できるものを思い浮かべればいい。
三大珍味も、酒盗も、いぶりがっこも、その条件を満たしている。何百年も前から、酒を飲む人たちが同じ方向に答えを探し続けた結果として、いまの組み合わせがある。
その延長線上に、コンビニの鯖缶やチーズが並んでいるだけの話だ。難しく構える必要はない。
魚介料理との組み合わせは日本酒と魚介料理のペアリングをご覧ください。
酒のタイプ別の特徴は日本酒の味の種類で解説しています。
参考: 農林水産省「日本三大珍味といわれている『うに』『このわた』『からすみ』について」、各種水産・食品関連の公開資料