Z世代と日本酒:若者に届く新しいアプローチ
日本酒離れが進む若者世代。Z世代の価値観に響く日本酒の魅力と、業界の新しい取り組みを紹介します。
「おじさんの飲み物」という誤解
「日本酒って、おじさんが飲むやつでしょ」
大学生の従妹にそう言われて、私は少しショックを受けた。彼女の中では、日本酒といえば「居酒屋で年配の人がコップで飲んでいるもの」。華やかさも、おしゃれさも、まったくイメージにないという。
でも、彼女が知らないだけだ。
日本酒の世界は、この10年で大きく変わった。若い蔵元が新しい酒を造り、ラベルデザインはワインのようにモダンになり、SNSで映える酒が次々と生まれている。
問題は、それが若い世代に届いていないこと。
日本酒離れの本当の理由
Z世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)の日本酒離れ。原因は何か。
私が若い人たちに聞いた限り、「日本酒が嫌い」なのではない。**「日本酒を知らない」**のだ。
家で日本酒を飲む習慣がない。飲み会ではビールかサワーが出てくる。日本酒に触れる機会そのものがない。
触れたとしても、最初の体験が悪いことが多い。飲み会で先輩に勧められた安い酒を一気飲み。翌日ひどい二日酔い。「日本酒=悪酔い」というイメージが刷り込まれる。
これは日本酒のせいじゃない。飲み方のせいだ。でも、一度ついたイメージを覆すのは難しい。
変わり始めた業界
日本酒業界も、このままではいけないと気づいている。
若い蔵元たちが動き始めた。従妹に見せてやりたい蔵がいくつもある。
新政酒造は、その象徴だ。
ラベルデザインがまず違う。「No.6」というシリーズは、数字とアルファベットだけのシンプルなデザイン。従来の日本酒っぽさがない。棚に並んでいたら、ワインかと思う。
味も違う。フルーティーで、爽やかな酸味がある。「これ、本当に日本酒?」と聞かれることが多いという。
秋田の小さな蔵が、SNSで話題になり、今では入手困難な人気銘柄になった。若い蔵元の挑戦が、新しいファンを生んでいる。
「映える」ことの意味
Z世代はInstagramやTikTokで情報を得る。「映える」かどうかは、想像以上に重要だ。
笑い話じゃない。
従来の日本酒ラベルは、筆文字に漢字。渋くて趣があるが、20代には「古臭い」と見える。飲んでみたいと思わせる何かがない。
新しい蔵は、そこに気づいている。
ポップなイラストのラベル。カラフルなボトル。思わず写真を撮りたくなるデザイン。「これ何?」と興味を持ってもらえれば、第一関門突破だ。
中身が良くても、手に取ってもらえなければ意味がない。デザインは入り口であって、妥協ではない。
飲みやすさへの進化
「日本酒は強い」というイメージも、障壁になっている。
確かに、普通の日本酒は15〜16度。ビールの3倍以上。最初の一口で「きつい」と感じる人は多い。
だから、低アルコールの日本酒が増えてきた。
8〜10%程度に抑えたもの。スパークリング日本酒。フルーツ風味のもの。入り口のハードルを下げる工夫だ。
**澪(みお)**はその代表格。アルコール5%で、甘くて飲みやすい。コンビニで買える。「日本酒」という括りに入れていいか微妙なくらい、別物の飲み口。
これを「邪道」と言う人もいる。でも、私は思う。入り口は低い方がいい。澪から入って、いつか純米大吟醸にたどり着く人もいるだろう。
体験を求める世代
Z世代は「モノ」より「コト」にお金を使うと言われる。体験を重視する。
酒蔵見学は、そのニーズに応えている。
造り手の話を聞きながら、仕込みの現場を見る。その場でしぼりたてを飲む。できたての酒は、流通しているものとは別物だ。
「酒蔵に行ったことある?」と従妹に聞いたら、首を横に振った。「行ってみたい?」と聞いたら、少し考えて「SNSで見た蔵がおしゃれだったから、そこなら」と答えた。
入り口はそれでいい。
ストーリーの力
若い世代は、商品の背景にあるストーリーに惹かれる。
誰が、なぜ、どうやって造ったのか。その物語に共感できるかどうか。
天美という酒がある。造っているのは若い女性杜氏。廃業寸前だった蔵を引き継いで、一人で酒造りを始めた。その挑戦のストーリーが、SNSで共感を呼んだ。
酒の味も良い。でも、それだけじゃない。「この人を応援したい」という気持ちが、購買につながっている。
自由に飲めばいい
「日本酒はこう飲むべき」という押し付けは、若い世代に嫌われる。
冷やして飲んでもいい。ロックでもいい。ソーダで割ってもいい。カクテルにしてもいい。
「邪道」と言われることを、Z世代は気にしない。自分が美味しいと思えばそれでいい。多様な価値観を持つ世代だ。
日本酒業界も、そこに追いついてきた。公式にカクテルレシピを発表する蔵もある。「好きに飲んでください」というメッセージを発する蔵も増えた。
従妹を日本酒バーに連れて行った
試しに、従妹を日本酒専門のバーに連れて行った。
カウンターで、ソムリエが「どんな味が好き?」と聞いてくれる。「甘いのがいい」と答えると、3種類ほど候補を出してくれた。
最初に飲んだのは、フルーティーな純米吟醸。次に、スパークリング。最後に、デザートに合う貴醸酒。
「全然イメージ違った。おじさんの飲み物じゃないね」
その一言が、この記事を書こうと思ったきっかけだ。
日本酒は変わっている。変わっていることを、若い世代に伝えなければいけない。一杯飲めば、イメージは覆る。
問題は、その一杯にたどり着くまでの壁をどう下げるか。業界の挑戦は続いている。
日本酒の基本については日本酒とはをご覧ください。
初心者向けの日本酒選びは最初の一本で詳しく解説しています。